フェアリー・アウト・ガール

※この物語は、女性の変身・急成長・若返りが含まれます

 秋風が夕焼けを呼び込みはじめ、散りゆく落ち葉からは哀愁すら感じられるアメリカ○○○○州のある日。

 そこに建てられた、庭にある真新しいサンザシの切り株以外ごくごく普通の一軒家。もし活力漲る若い男が、二階の明かりがついている部屋を裏通りからこっそり観察出来たのなら、その部屋をウロウロする人影を見て、鼻の下を伸ばしつつ頭に疑問符が浮かんでいたであろう。

 なぜならその人影は、驚くほどにセクシーで、そしてなかなかに不思議な格好をした、まるで妖精のような美貌の美女だからだ。

 背丈は女性としては相当に高く6’2”程もあり、その太ももに触れるほどに長い黄金色の髪と合わさり、抜群の存在感を放っている。晴天の空のような青い目を持つ整った顔立ちは、凛々しさと何故か幼げな印象を見る者に与えていた。

 だが何よりも、美女を背後から見た時に目視できるほどに大きな胸。それと同様かもしくはそれ以上の魅惑的な脂肪を蓄えた臀部と太もも。それらチャームポイントをさらに引き立てる理想のくびれ。

 これらは世のスケベな男共を虜にするのには十分な破壊力を有していた。

 だが同時に、観察者が疑問を覚えるような特徴もいくばくか見受けられる。

 第一に彼女が身にまとうハレンチかつボロボロな服装だ。上半身はあちこちが破けた白い筒状のような布が、余りにも大きい乳の下半分からへその上あたりまでという、わずかなエリアのみを隠している。どう考えても、今の彼女がこれを着脱することは困難であろう。

 下半身はかろうじてショートズボンと認識できるジーンズ素材のぼろ布と、下半身に食い込むピンク色の下着、そしてズタズタに引き裂かれその隙間から彼女の肉をこぼれさせている黒ストッキング。いずれにしろ、その露出の多い恰好は、まるで全くサイズの合わない服を無理やり着せられているようである。

 第二に彼女の耳だ。普通の人間ではありえない上部がとんがった形をしており、創作物をでてくるエルフ、あるいは妖精の持つソレと酷似していた。しかも作り物では無いことを誇示するかのように、それはピクピクと肉感を伴って動いているのだ。

 そして何よりも第三の特徴として。彼女は今、物理法則をあざ笑うかのような、全身に渦巻く「風」をまとっているのだから……!


「……よし、パイの食べかすはこれで大体皿に戻ったわね!」

 女性にしては少し低い声色でそう呟きながら、美女は大きく開いていた右手を、軽く捻りつつ握りしめる。すると、彼女の周りを渦巻いていた空気の動きがピタリと止み、瞬く間に凪いでしまった。

 この一連の流れは誰が見ても、美女が自らこの超常現象を起こしていた事の動かぬ証拠であり……、

『何しでかしてくれちゃってるのよアシュリン!?』

 美女、すなわち妖精アシュリンに現在身体を乗っ取られている真っ最中の一般的女子高生であるジェーンに、互いの認識のすり合わせをするべきだと決意させるのには十分な出来事だった。

「ん? ジェーンも変なこというわね……? 身体を綺麗にしようと思うのは、人も妖精も同じだと思ったのだけれど……?」

 窓に均整のとれた背を向けながらアシュリンは小さく呟いた。その顔に疑問符を浮かばせつつ、尖った耳を震わせながらアシュリンは語気を強めて更に声を発する。

「もしかしてあなた、小汚いほうが落ち着くタイプの生き物? ……いやよ! あなたは私の宿木なんだから、今後は清潔さを保ってもらうわよ」

『違うわよ!! 私をそんな特殊な人間にカテゴライズしないで!?』

 相手の反論にますます語気を強めていく。

「じゃあ何が気に食わなかったのよ!?」

『色々あるけどまず最初に言いたいのは、私に無理やり憑依してアップルパイを食べ始めたころかしらね!?』

 カーテンに寄りかかり長い右手を自分の心臓(正確に表現するなら、無残なワンピースに覆われた大きな左乳房)に添える。気がつけばアシュリンは、自分の『内側』に格納されているジェーンと口論を勃発させていた。

『言いたいことは山ほどあるけど、今私が一番言いたいのは、カーテンを閉めないで魔法を使わないで! っていうことよ。見られたら大変でしょ!』

「…?」

『……嘘でしょ……。今のでピンと来ないの……?』

 ジェーンの文字通り魂からの叫びに対し不思議そうに首をかしげるアシュリン。夕陽におぼろげに照らされた左手は行き場を探してプラプラと彷徨っている。どうやらいまいち人に見られる危険性をわかっていないようだと、ジェーンは感じとった。

『魔法もそうだしさっきの変身もそうだけど、こんなの誰かにばれたら私はやばい研究所かやばい宗教団体送りだわ! もちろんあなたも!』

「……なるほど、それは確かに大変だわ! あなたが捕まったら私も家に困るもの!」

 アシュリンは手を軽くたたき、背後にあった赤色のカーテンを掴み外部からの光を遮断し始める。

 ジェーンは(元々彼女の見た目や雰囲気は幼い女の子みたいだったし、ひょっとすると幼女みたいに感情的で短慮気味なのかも?)と考えを巡らした。そして彼女がそう考えていることを、現在大きな胸を揺らしながら楽しそうにカーテンを握っている、外見美女の内面幼女は気が付かなかった。

 (それなら腹の探り会いをしても無意味ね。こっちから一歩踏み込むべきだわ。)そう判断したジェーンは、優しくアシュリンに声をかける。

『ねぇアシュリン、ちょっといいかしら?』

「な~にジェーン? ちゃんと風じゃなくて手でカーテンは閉めてるから大丈夫よ?」

 ややズレた事をいうアシュリン。

『へぇ、あなたの風魔法ってとても細かくコントロールできるのね……って違う違う。…ズバリなんだけど、今後あなたは私にどうしてほしいの?』

「どうって……」

 突然、二人にとって非常に重要な問いかけをされたことで、大きな瞳を子供のようにぱちくりさせるアシュリン。心の中に様々な思いが駆け巡る。そしてそこから口にでたのは……、

「どうって……そりゃ私のお家を作るのにふさわしい場所を探すためにこの身体を貸してほしいわ! 私の家を斬り倒したあなたのお父さんの代わりにね!」

 焦がれる程の家の補填に対する願い。膨れっ面で不幸な事故で住まいをなくしたばかりの妖精はそう言いはなった。

『それは……、』

 そんな不幸な妖精に同調するように、妖精の仮住まいは悲しそうに相づちをうつ。

『でもあなたや魔法の存在は…科学で栄えてきた表の社会では絶対に知られてはいけない。アルバさんのこの忠告には私も大賛成だわ』

 しかし冷静に彼女は、アシュリンの行動の問題点を指摘する。それを聞いてアシュリンは顔を真っ赤にして大きな声で話し始めた。

「でも!……でも今の私は、身体の維持の生存のためにジェーンから50’も離れられないわ! ~もし離れちゃったら、私は消えてしまうもの!」

 アシュリンは自身の発現内容にブルブルと震え上がり、本来の身体には存在しない大きな二つの山ごと自らを抱きしめる。

「だから、あなたの身体を借りて私の本来の家にふさわしい場所を探さないと……! そうするしか方法はないの……!」

 うっすら泣きそうにすらなっているアシュリン。顔の形は大人のそれでも、その表情はまるっきり本来の子供のようにジェーンには見えた。

 ジェーンは心の中でため息をつく。本来であれば巻き込まれた側である彼女だが、もうすっかりこの妖精に絆されてしまったようだ。ジェーンはアシュリンに素直な今の自分の思いを投げ掛ける。

『話を最期まで聞いて、アシュリン? 私はあなたの家探しを手伝うことは全然かまわないの。……正直結構申し訳ないとも思っているし……』

 少しばつが悪そうに、無い頬をジェーンはかいた。

『だから……、だから私があなたの家探しの足になってあげる。あなたの本当の家に相応しい場所を探してあげる!』

「ジェーン……」

 その言葉に嘘が無いことが伝わったのだろう。アシュリンの表情からもう怒りと不安の感情は消えていた。

『もちろん、多少は限度があるけどね?』

「……うん、ありがとう! 改めて、これからよろしくね!」

『ええ。よろしくね、アシュリン』

 こうして、二人の出会いからおよそ三時間後。ジェーンがアシュリンを受け入れる形で彼女たちは晴れて運命共同体になったのだ。


『ところでさ……どうして貴女は私に憑依した時に、素の身体じゃなくて色々と大きく成長させるの?』 

 ジェーンとアシュリンの精神的・魔力的な結び付きが深まってからおよそ五分後。ジェーンは最初に妖精に身体を乗っ取られた時から思っていた疑問を問いかけた。

『さぁ? わかんないわ?』

 呆気からんとアシュリンは言う。

「さぁ? ってね……」

 (やっぱりこの娘色々とテキトーね……)と改めて感じるジェーン。しかし凄い魔法使いでも研究者でもないなら、当事者でもこんなものかもしれないと、しぶしぶながら彼女は納得することにした。

『なら視点を少し変えましょう? アシュリンは、この…色々と派手で大きな身体で何ができるの?』

 だからこそ、彼女はもっと実用的な事を聞くことにした。アシュリンは耳をピクつかせながらゆっくり答える。

「そうねえ…まず普段の時よりも強力な魔法が使えるわね。マナを利用した風なんか操作も力もずっと凄くなってるわよ?」

『あぁ……さっきもパイ屑の片付けにやってたわね』

 ジェーンは先程アシュリンが身体に風をまとい、器用にパイ屑だけを皿の上に戻していたのを思い出した。なるほど、確かに凄まじいコントロール力だったと彼女は感心する。

『じゃあ、出力はどんなもんなの?』

「えーと、部屋の中だと危ないから全力はだせないしだしたこともないから全然わかんないけど、人一人吹き飛ばすくらいは楽勝ね!」

『思った以上に強い!?』

 もしかして妖精は戦闘民族なのでは? そうジェーンはいぶかしんだ。

「あとは……こんなの!」

 そういうと彼女はドアに向かって弓矢を射るポーズをとった。次の瞬間、どこからともなくまるでエメラルドのように、緑色に煌めく弓が同色の矢を装填した状態で現れる。

 そのままアシュリンはゆっくりと構えをといた。心なしか顔が誇らしげだ。

『これってもしかして?』

「そう! 100%マナでできた弓矢よ! これで敵を倒すことも余裕ってわけよ!」

『敵って誰を想定してるのよ……』

 やっぱり妖精は戦闘民族なのでは? そうジェーンは半ば確信じみた気持ちでいた。

「私の家に危害を与えてくる厄介者とか? ……冗談よ、あなたのお父さんは流石に狙わないわ」

『さっきまでの事を思い出すと全然笑えないんだけど……』

 ジェーンはちょっぴり複雑な気持ちになった。実の父親が変身した自分のからだに追い回され身体中穴だらけになりかける光景を夢想したからだ。

 ここでふと、ある考えが彼女の中によぎる。

『ねえアシュリン? 今の私って、この状態の身体を動かすことってできるの?』

 現在、アシュリンに身体の全コントロール権を未だに奪われたままのジェーンは、そう彼女に問いかけた。

『えっとね。うん…それならできるわ』

 弓矢をただのマナに分解して消しながら、あっさりと彼女は回答する。

「ていうか、説明するより体感した方が早いわよね? ……ソレ!』

『……? うわっと! 急に身体が自由に!?」

 ジェーンが困惑したのも無理がない。彼女はアシュリンから、身体の主導権をいきなり返されたのである。体験したことの無い胸の重みで思わず前に転びかける。

『こんな感じで私の意思次第だけど、あなたに身体の所有権を返すことができるわ』

 先程までとは逆に頭の中にアシュリンの声が響き渡る。それは彼女にとって結構な不思議体験であった。

「視界が広いな~……自分で動くとよくわかるわ……」

 普段の自分より、少なく見積もっても1’5”は高い背丈からの光景に、思わずそう口に出す。

『そう? 私はもっと高い場所から世界をみてるわよ?』

「そりゃあなたは空を飛べるからね」

 ジェーンは、心の中のアシュリンと軽口を叩きあいながら、引き出しから簡素な手鏡を取り出す。

「……顔立ちがまるで大人なった貴女みたいね、アシュリン?」

『そりゃそうよ、私があなたの身体を使っているんだもん』

 黒ではなく青い目、首にかかる程度の黒髪ではなくももまで届く金髪、人の物ではない尖った耳。どれもこれもジェーンではなくアシュリンの特徴である。

 そしてジェーンは手鏡にうつすものを、顔から身体全体に変えていった。それはもちろん、改めて自分の変わりきった身体を確認するためである。その結果…、

「……うわぁ……」

 恥ずかしさとその大惨事度合いにひきつった声を出す。

 普段のジェーンにはゆったりめのサイズだった白いキャミソールを、その圧倒的な大きさで限界まで拡張してボロボロの胸巻きのようにした二つの凄まじいおっぱい。それらは大きく揺れながら胸巻きの無数の穴から顔を出し、惜しげもなく自身の乳肉を露出させていた。

 また普段のジェーンにはピッタリなサイズだったショートパンツを、その圧倒的な張りでやはり限界まで拡張してビリビリに破き、更に白いパンツを股から露出させながらそれらを食い込ませる素晴らしいお尻。こちらも大きく揺れながらそれらを更に自身に密着させ、己の重量感を誇示していた。

 何よりも身体に対してあまりにも小さな服は、少しでも動く度に彼女の敏感なところを刺激するため、ただ立ってるだけでもジェーンはいやらしい気持ちになっていく。

「……んんっ! 意味もなくドキドキしてる場合じゃないわ! この身体ならもしかしたら私でも……!」

 無意識に股間に伸びかけた手をぐっと抑え、そのまままっすぐ前に伸ばす。

「…………風よ、巻き上がれ!」

 マンガの必殺技っぽく宣言するジェーン。創作者の夢である、自力での魔法発動を行おうとしたのだ。

 しかし何も起こらなかった!

「……無理ね」

 肩を落とすジェーン。

『ねぇジェーン? そもそもの話なんだけど、貴女マナって見えてる?』

「……それ以前にどこにマナが充満してるのかわからないわ……」

 実際アシュリンが身体をコントロールしていた時にはジェーンも彼女を通してキラキラした粒子のようなものは見えていた。しかしジェーンが主動権を握っている今は、全くソレが彼女には見えていなかった。

『……あなたが魔法を使いこなせるようになるのと、あなたがしっぽを振れるようになるのとは、大体同じくらい難しいと思うわよ?』

「そんなに?」

『初めて知ったのが今日だからっていうのもあると思うけどね。要は慣れの問題だしね~』

 心から響く妖精の助言に、(…誰にもみられないように自室でひっそりとだけど、この身体で魔法の練習しよう……。絶対使えるようになるんだから……!)と人間は静かに決意を固めるのであった。

 (そのためにも、アシュリンが完全な乗っ取りじゃなくて私の身体を変身させてくれる状況を作らなきゃ……! だったら……)「あと……そうね、一緒に暮らすんだからルールを決めましょうか?」

『ルール?』

「そう、ルール。お互いに相手にこれだけは守って欲しいっていうのを決めて二人ともそれを守りましょう! っていうことね」

『ふーん。ま、家探しを確約してくれるなら私としてはありがたいわね』

 ジェーンの提案にアシュリンは軽く同意する。

「じゃあ早速内容を詰めて契約書もどきでも作りましょうか? 私が書くわね」

  ジェーンはそう言うと変化した身体を動かして、普段使いしてる自分の作業用机の椅子に腰をおろし、椅子の座高を思いっきり下げる。いつもの椅子の高さでは、大きく太く急成長した太ももが、机と椅子の間に挟まってしまうからだ。

 (妖精が書いたら魔術的な強制力とか働きそうだしね。契約内容のアップデートがしにくくなるのは不味いし……)等と考えながら、彼女はノートとペンを用意する。

「よし、準備オッケー。何から決める?」

『じゃあ、改めて私からだけど……』

 こうして二人はこの奇妙な共同生活のルールを擦り合わせながら決めていく。ジェーンは身を少し窮屈そうに屈めながらもルールを紙に書いていった。

 そうこうして十分後……、

「『できた!!』」

 ついにルールが完成した。とはいえ複雑な内容は特にない。具体的には、

①アシュリンはジェーンの人としての生活を邪魔しないようにする。具体的には、ジェーンの意識を奪って身体を乗っ取ったりしないこと。

②ジェーンはアシュリンの家探しのためにあちこちへ出かけるようにする。具体的には、休日は自然が豊かなところを探索し、アシュリンのサンザシの種を植えるべき場所探しを手伝うこと。

③相手の力を借りたいときは、最初に実力行使するのではなく、まずは言葉で説得すること。

④なお緊急時や許可があれば、アシュリンはジェーンの意識を奪って身体を乗っ取ってもよい。

 以上の4点である。

「こんなものかしらね? ……はぁ疲れた~」

 ジェーンは狭い机の下のスペースから抜け出して立ち上がると大きく真上に伸びをする。長い金髪が静かに揺れ、両手は天井に届きそうなほどだ。

「……ふぅ…。今やらなきゃいけないことは大体やったし、もう元の身体に戻る頃合いよね? ……いや、まあ、色々と凄いし、コンプレックスの低身長も解消されてるしで、この姿自体は正直嫌じゃないんだけど……」

 やや矛盾した独り言を呟きながらも、このままでいたら本来の自分に戻ろうとするジェーン。瞳を閉じて全身に力をこめる。だがしかし……

「……えっと? こう? いやこうかな? んん~っ?」

 少しも変わる様子がない。ジェーンは青い目を開けてついオロオロしてしまう。

『あっそうだわ!? マナの結びつきを弱めて変身を解除するなんていう芸当、へっぽこジェーンじゃできるわけないじゃない!?』

 ジェーンが変身を解こうにもやり方が全く分からないと困惑している様子を見て、何をさとったのか非常に嫌そうにするアシュリン。

『…はあ~。しょうがないわねぇ。私がちゃんと後始末するからジェーンは少し引っ込んで頂戴!」

 

 そう言い終わる前には、彼女はジェーンへの乗っ取りを勝手に開始する。妖精なりの優しさは、あまりにもせっかちで、聞く耳を持っていなかった。

「アシュリン! 別に今は緊急事態じゃな……い……ゎ……』

 ジェーンが咄嗟に反論しきる暇もなく、彼女の意識は遠退き闇に落ちた。

「……さてと、どうしよっか?」

ジェーンの精神を無理やり己の奥底に眠らせたアシュリンはそうごちる。

「つい勢いで啖呵を切っちゃったわけだけど…。あの時はアルバが殆どコントロールしてたから、いまいち自信がないのよねぇ……」

 長く整った腕を胸を支えるようにして前に組みながら、彼女は頭を傾け考え込む。人間からの憑依の解除はこれが二度目ではあるが、外部の補助なしと考えると初めてのことだったからだ。

「まあいっか! とにかく私がジェーンの身体から抜け出せばいいんでしょ? 人間の宿り木にはまだ慣れていないけど、こうして……、マナの繋がりを緩めてっ……と!」

 が、そこは情緒が幼い妖精。すぐにあれこれ考えるのを諦めて行動に移した。ひとまずジェーンの肉体から、彼女の本来の姿である妖精ボディを分離させるため、小さな妖精はジェーンの左肩から飛び出した! …つもりで彼女はいたが、

「!? よしっ……んん?」

 実際の彼女がした行動は、ジェーンの身体ごと垂直に高く跳び上がっただけである。着地の衝撃で女性らしく肉々しい身体のあちこちがよく揺れる。

「アレ? おかしい…? サンザシの木の時ならこれくらい繋がりを弱めれば外に出られたのに……?」

 想定とは違う結果に不思議に思う彼女。その肉体は依然として豊満だった。

「むぅ…仕方ないわね。ちょっと大変だけど、もう少し繋がりを弱めてみましょう」

 アシュリンはもっとマナの操作に集中しなければいけないという事実に気がつき、少し嫌そうな顔をする。実際二人の繋がりが更に弱まったことで、ジェーンから借りてる身体が操作しにくくなったようにアシュリンは感じ始めた。

「…ふぅ……身体が重たいわ……。でもこれなら、そのうち上手くいくでしょ?」

 しかし彼女は、これならば成功するはずと、すぐさまポジティブに考え直す。結果、懲りずに様々な体勢から同様のチャレンジを繰り返した。

 例えばジェーンの身体を仰向けにしてベッドに寝かせ、サンザシの木の根に見立てて飛び立とうと挑戦。結果憑依解除は成功せず、ただ勢いよく彼女が上体起こしをし、長い金髪が腰回りを中心に複雑に絡んで鬱陶しい思いをしただけだったり……。

 例えば壁にペッタリとくっつき重心を寄せ、その状態から真後ろにアシュリン本体のみを離脱させようと挑戦。結果は合体している身体ごと後ろによろけ、盛大に床へ尻餅落下し尻肉がタプンッと蠱惑的に揺れただけであった。

「もう!! 何で上手くいかないの!?」

 ついに地団太を踏むアシュリン。本来の少女の姿ならともかく、美しい妙齢の女性の姿でやるそれは少々アンバランスに見える。

 そしてそんな彼女は、やり場のない怒りの発露に夢中で、自身の身体から本来あるべきはずの全身のダルさが消えてることに全く気がつかなかった。

『やっぱり同じ宿り木でも、その場から動かないサンザシと動き回れるジェーンじゃ勝手が違ってことかしら…?』

 部屋の中を歩き回るアシュリン。切れたキャミソールの肩ヒモが、とても大きな二つの乳に合わせてリズミカルに揺れている。

『そういえば前の家と違ってマナの繋がりが変に強くてゴチャゴチャしてるわね? ジェーンから脱出できないのもそのせいだわ……!』

 それから彼女はたっぷり30秒は部屋をうろうろするが、結局これといった名案は思い付かず。 

『こうなったら全神経を集中させて! 憑依解除してやるわ!!』

 最終的に力業でどうにかするようにしたようだ。

 忙しなく動かしていた足を漫画で詰まった本棚の前で止め、そのまま軽く開いて両腕も真っ直ぐ下に伸ばす。

「憑依解除よ!」

 妖精はそう短く宣言し、宿り木への魔力的繋がりを無作為にカットし始める。

「……むむむむむっ!」

 しかし変化は現れない。瞳を閉じ更にマナ操作に意識を集中する。

「……ぐっ……むぅ………んんっ!」

 やはり変化は現れない。全身に力を入れ、手のひらを強く握りしめる。今の身体の制御権すら半ば放棄し、とにかくマナ操作に集中する!

「……んっふぅ……んっ……んあ!?」

 そして変化が……現れる。その色々と大きな肉体のあちこちから、黄金色に輝くマナが漏れ始め、それはまるで湯気のように立ち上っていた。それはアシュリンにとっては、まるで重力に打ち勝って非常に重いダンベルを持ち上げられたような、明確な現状からの打破の証であった。

「あっ! 身体からマナがこぼれだしてる…! 成功だわ!」

 アシュリンは自身の身体の変化に喜び顔を綻ばせる。しかしその顔は長くは続かなかった。

「……さ、寒いわ……、力も抜ける……し、なんだか……へ、変な気持ち……?」

 まるで雪の降る夜に、家の暖房器具が徐々に出力が下がり機能停止していくかのように、身体の芯から冷えていくような感覚を味わうアシュリン。手足の感覚もなくなり、あれだけ強く握っていた二つの手のひらは力なく垂れ開かれていた。

 一方でアシュリンは、借りているジェーンの身体の一部は、寧ろ感覚が敏感になっているように感じていた。下腹部は熱を持ち、胸の先端がピリピリする、そんな奇妙な感覚だ。

 総じて全身の感覚がしっちゃかめっちゃかになっており、今すぐに倒れてもおかしくないようだと彼女は思う。

「……はぁ……はぁ……っえ…?」

 しかし彼女の予想に反し身体は倒れない。それどころか危なげなくどこにも寄りかからずに立ったままだ。

 …唸る妖精は気づかない。アシュリンがジェーンの身体のコントロール権を自ら手放した今、彼女の身体は持ち主の無意識が制御していることを。だからこそ、自身を傷つけかねないような行動がこのタイミングで起こるはずがないのである。

「……あぁっ、うっ……くぅっ……!」

 パンパンに膨らんでいた浮き輪に無数の穴が空いてしまったかのように、身体から妖精の力の源であるマナが漏れる苦しみに呻くアシュリン。

 そうこうしてる内に、いつの間にかアシュリンは、全身が金色のマナのベールに包まれ息を荒げているような状態に移行していた。

「…っ…うっ、…んあっ……?!」

 立ったまま倒れることすら出来ずに脱力感と寒さ、そして奇妙な熱に苛まれるアシュリン。そんな彼女の身体からマナが急速流出したことによる影響は、とうとう物理的にも現れ始める。

「背……、元に戻り始めてるっ……ジェーンに!」

 それに気づいたアシュリンは、マナ不足で凍えるような感覚や乳首がすれる感覚に堪えながらも微かに呟く。

 漸く本来の目的達成というべきか? 憑依合体した結果6’2”程もある今の身体から、4’8”程しかない元のジェーンの姿に縮み始めたのだ!

「うっうん、っさむくて……っふ、ふるえちゃってる…?」

 腕が、脚が、髪が、わずかに痙攣し始める。

 女性にしては大きくバランスの取れた美しい両手は、ダランと力が抜けたまま腕の長さの消失に伴ってゆっくりと上へ引っ張られてる。

 大人の女の魅力を携えた長く太い脚は、腕以上の速度でジワジワと縮み、破れた黒ストッキングから溢れる肉の量を確実に減らしていた。

 ふくらはぎに触れる程長く身体から湧き出るマナの色とおなじくらい輝く金髪は、丸見えのおしりの割れ目になんとか届く程度にまで短くなり、その輝きもあせて茶髪に近づいていた。

「……ふぅ……身体が…ぅ…ブルブルするっ!…あ゛ぁ゛…♥️!」

 おっぱいが、お尻が、いや全身の肉が、少しずつ震え始める。股や胸のいやに敏感なところがこすれ息も荒くなる。

「…服の…締め付けが…ユルく…んっ♥️!…なった……?」

 悶え肉を揺らしながらも、胸やお尻付近にやや違和感を覚えるアシュリン。憑依合体した姿では、無理やり装着していた衣服達。彼女の身体をがんじがらめに締め付けているそれらは、元に身体が戻るにつれて再びちょうどいいサイズになる……わけでは決してない。

 なにしろそれらは、ビリビリに破けようがダルダルに伸ばされようが、無理やりその大きすぎる身体に入るように拡大されたうえに、その変化は不可逆なのだから当然である。

 おっぱいや身体の厚みが僅かながらに薄くなっていき、窮屈なキャミソールがゆるくなる。胸と布の間に空間ができ、二つの乳首が何度も粗末な胸当てにしごかれる。

「……んんんっ♥️!?」

 張りのあるお尻も脂肪を減らし、ショートズボンもゆるくなる。結果まだ肉の量がほとんど変わらない太ももに押し上げられる形で、ボロボロのショートズボンとパンツは彼女の股にVの字を作った。

「……はぁ……はぁ……はぁ♥️」

 そしてアシュリンの変化は胸やお尻にとどまらない。その両方、いやお腹の肉や首の肉といった全身に装着された魅惑的な肉達が、少しずつ変化に抵抗するように震えながらも、徐々に質量を失い始めた。

「おっほぉ♥️!……ぜんぜんっ……ぁ…!動けなぃっ!っんあ゛!?」

 そしてその度に敏感なところは容赦なく刺激を受け、驚くほどほど低い嬌声が口からこぼれていた。全身を襲う未知の感覚に翻弄され、身体のコントロールも効かず、最早彼女は喘ぐことしか出来なかった。

 そう、彼女は喘ぐことしかできなかったのだ。……大事な大事なマナ操作すら放棄して……。

「……はぁ……はぁ……はぁ……っえ?」

 その結果。彼女の身体は漏れ出たマナを取り込みながら……再び成長を始めていた。

『~~~~♥️!?』

 声すらでなかった。マナが還り、肉は盛られ、不自然なほど身体が熱くなる。手足全体は先程までの長さを取り戻そうと軋み、髪の毛は再度輝く金色に近づいていく。そして更に……、

「んがぐっ! そ、そんな♥️!?」

 身体の成長によって再び服の拘束が強くなる。乳首は勃起したままキャミソールに押さえつけられ、クリトリスもパンツとズボンに押しつぶされる。たえきれず声を荒げるアシュリン。

『この状態で集中しろ!……ってこと?!』

 それでも彼女は現状の把握に成功していた。もちろん、そのたったひとつの解決策にも気がついていた。

『いいわ……最後まで耐えきって見せる!』

 アシュリンは覚悟を決めた。快と不快が荒れ狂う現状に耐えて、最後までマナを操作する覚悟をだ。

「……ふぅっ……ふぅっ……ふぅっ!」

 身体の成長は止まり、時計の針が逆転する。彼女の身体は、先程以上の勢いで至るところからマナが吹き出す。四肢から輝く湯気を出し、喘ぎ悶えながらも堪える彼女のことなどお構い無しに、アシュリンの憑依解除の速度は明らかに増加していった。

「あっあっあっ……あっ♥️!?」

 そんななか、直立したまま全身を布と空気になぶられているアシュリンの視界に変化がおとずれる。眼前に広がる本棚の高さが、気づいたら一番上のエリアからその一個下に下がっていたのだ。大きすぎる胸が遮っていた足元も、チラチラと彼女の青い目に入るようになり、ゆっくりと小さくなり続けている両足の様子が伺えた。

「あっ……はっ♥️?……さ、さむぃっ!?」

 日溜まりのような暖かそうな金色のオーラに包まれながらも、実態は強烈な寒さを感じ震えながら立ち尽くすアシュリン。耳の尖りは丸くなり、髪の長さはへそに届く程度にまで短くなっている。

「ず、ズボンが…、落ちちゃうぅ……あっ♥️」

 たっぷりと脂肪を蓄え丸々と存在感を放っていた、変身したアシュリンのお尻と太ももで詰まっていたボロボロのショートズボン。更に追加でサイズの関係で彼女にピッチリと食い込むパンツ。

 そのうちショートズボンは臀部の減量によって空間的なゆとりが生まれ、そのまま体重をかけている右側からずり落ちる。それはまだ十分に太い太ももの途中でひっかかりそこで停止したが、一方でパンツはその結果殆どが隠されずに丸見えになってしまった。

「む、胸がっ! ……はだけちゃう!? ……風でかんじちゃうっ♥️!」

 更に、装着者の急成長という内側からの圧力により、至るところが真横に裂け、肩紐もちぎれ、それでもなお服としての役目を放棄せずに、アシュリンの巨大なおっぱいを覆っていたキャミソール。

 それは彼女の背丈が減り、肩幅が狭くなり、何よりもおっぱいの縮小により内側から押される力が減った結果、くたくたになったキャミソールは、彼女の身体をずり落ちながら細長いへそを上から少しずつ隠し始めた。代わりに膨大な体積が無理やり内側から支えていた、キャミソールの上部も前にめくれる形で役目を終え、勃起した淡いピンク色の乳首をハッキリと露出させた。

 露出が増えたことで更に寒さを感じ、また仄かな空気の流れが胸をなで、アシュリンは更に喘ぎ声を漏らす。

「まだ…まだ…終わらないっ!のぉ……♥️?」

 集中力が今にも切れそうな、すっかり参った表情で首を上に向け天を仰ぐ彼女の顔は色気のある大人から子供のような見た目に変わり始め、その瞳からは彼女特有の青みが薄くなる。

 絶対的な値でも身体に対するバランス比でも長く太い脚は、その全体のバランスを失い子供のようになっていく。ストッキングは皺を作りながら縮み、足首までずり落ちた。

「ず……ズボンが……腰が……身長も……っ♥️!」

 変化は最終段階に入り、その縮小速度は更に加速した。肉眼でハッキリとわかる速度で身体が小さく幼くなっていく。

 すそが破けボタンが弾けとびファスナーが全開になった美女のスーパーショートパンツは、更なる太ももとお尻の減量によって完全に彼女の下半身よりも裾口の方が広くなり、ずり落ちることすらせずあっという間に足元へと落下した。

 モデルも羨むような腰のくびれは姿を消し、キャミソールは身体が細くなるのに比例して下がり続けた。

 最早当初の高身長は見る影をなくし、今は5’1”程しかなかった。それは本棚の上から三段目の高さとほぼ同一であり、また彼女の髪はほぼ黒に近いダークブラウンになり、長さも肩にかかる程度にまで短くなった。

 そして……

「ぁっぁっあっああっあ~~っ♥️♥️!!??」

 身体を痙攣させながらの絶頂を最期に、完全に憑依は解除された。髪の毛は完全に黒色に染まり、煌めくマナの湯煙と金色のオーラは消滅し、彼女のパーツの全てが一回り小さくなった。そしてへそ辺りで引っ掛かっていたキャミソールは床に落ち、最期にその上にジェーンの胸辺りからアシュリンがボトッと落下し気を失った。


 こうしてアシュリンがジェーンの意識を奪ってからおよそ五分後。茶色い瞳がまぶたを上げる。

「……んん? えっと一体私はなに……を……! ……キャーーーーー!?」

 直後ジェーンは自身が直立したまま全裸になっていることに気がつき、思わず両手で秘所を隠し悲鳴をあげる。と同時に、あちこちが破け余りにも大きく伸ばされたショートパンツやキャミソールが足元に散乱し、そのてっぺんでアシュリンがぐったりとうつ伏せになっているのが目に入った。

「ちょっとアシュリン? 私を眠らせてから何があったの?!」

 ジェーンは力なく倒れているアシュリンを心配しながらも、自分の服をダメにした上に裸にしたアシュリンに怒りつつ、彼女に声をかける。

「ねぇ、アシュリン? ねぇってば? 私の話を聞いてるの?」

 しかし、アシュリンは変身解除の疲れで眠くなっているのか、聞く耳を持っていないようだった。

 ジェーンは、仕方がない、とため息をつきながらも彼女を抱き上げ枕の上に優しく運ぶ。

「……それにしても、まさか私がおとぎ話に出てくる神話的な存在と交流できるなんてね……。もしかしたら魔法を使えるかもしれないなんてまさしく夢みたいだわ…」

 笑顔で眠るアシュリンを見て、ジェーンは心を落ち着かせる。

 そして、自分の人生がいかに神秘的なものになりつつあるかを考え出す。ふとジェーンは、机の上に散乱している、参考資料兼趣味のマンガ達が目に入った。

 そこには主人公の吸血鬼が吸血鬼を討伐してまわる話だったり、主人公の探偵が謎の組織により幼児化してしまった為、その組織を追い求める話だったりしたのをジェーンは思いだした。

『つい昨日までは、ただただ楽しい創作話だったのになぁ』

 だが今のジェーンは妖精(アシュリン)と一心同体だし、なんなら文字通り妖精と一心同体になることで、幼児化……じゃなくて急成長も可能である。この調子では、遠くない未来で全てのファンタジーをエッセイのように感じる日が来そうだ。

「もしかして知らなかっただけで、身近にもファンタジーやミステリーな出来事が起こって……いや、流石にないか」

 ……世間一般には、このような発言を俗に「フラグが立った」というのだが、幸か不幸か着替えをクローゼットに探しに行ったジェーンがそれに気づくのはまだ先のようだ。


原本:https://www.deviantart.com/kayyack/art/Fairy-out-girl-Japanese-935806980

この物語は、ガール・イントゥ・フェアリー の直後にあたる続編です。

これはニューセイラムという、ある世界の一部です.